哲学

反・人権・宣言3

「個人の創造力」ということはもう十分すぎるくらい語られてきた。むしろ「社会の創造力」ということが、そろそろ語られていい頃だ。 「社会の創造力」の典型は映画やオーケストラだろう。 そこには監督や指揮者といった全体をまとめる立場の人はいるものの…

反・人権・宣言2

人権は一般に「人間が生まれながらにして有している権利」と解釈される。 しかし、この概念にはさまざまな観点から疑問符がつく。 まず、人権の概念はホッブズのいう「自然権」に由来している。 自然権とは、原初の「万人による闘争」状態の中で個々人が好き…

反・人権・宣言1

よく「創造性のある人間を育てなければ」という言説を聞く。 しかし、これは次のように読み替えられるべきだ。 「創造性のある社会を育てなければ」と。 ミシェル・フーコーは「人間はやがて波打ち際の砂のように消え去るであろう」と言った。 そこで言及さ…

不二家事件と権力の相貌

前のエントリーで悪戦苦闘(笑)しているうちに、不二家事件があった。 まったくひどい事件には違いないのだが、ここは不二家事件をめぐってどんな権力が働いているのかについて考えてみたい。 朝のテレビで、不二家事件の関係者(?)にインタビューしてい…

学ばれない教訓

もう昨年の暮れの話になるが、ある日の「ニュース23」の特集テーマは「学ばれない教訓」だった。 いじめが元で娘が自殺してしまった父親のその後の活動を追いながら、いじめによる自殺が相次ぐ現在を告発しようというのがその趣旨だった。 問題意識に満ちた…

亡国のイージス

ちょっと前に録画していた「亡国のイージス」をやっと見た。 小説版に比べると、時間的制約の問題がやはり大きく、描き切れなかった部分が多いのは致し方ないところだろう。分厚い上下巻の、相当に読み応えのある本が原作であるのだから、まあ無理もない。 …

民主主義について

民主主義とは何なのか (文春新書)作者: 長谷川三千子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2001/09メディア: 新書購入: 2人 クリック: 49回この商品を含むブログ (15件) を見る 長谷川三千子「民主主義とは何なのか」(文春新書)を読んだ。 先頃、民主主義とは…

時生(トキオ)

時生 (講談社文庫)作者: 東野圭吾出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/08/12メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 84回この商品を含むブログ (222件) を見る プロローグは、病室に立ち尽くす一組の夫婦。 彼らの高校生になる息子は、グレゴリウス症候群という…

そして問題は解決しない

本当にそうだ。重松さんの作品の登場人物は誰も悪くない。みんな普通の人で、それぞれが問題を抱えている。 そして問題は解決しない。問題を抱えて生きて来て、新たな問題に直面し、なんとか乗り越えるも、また新たな問題に向かって生きてゆく。 夢と現実。…

子ども「とともに」生きること

重松清の「ナイフ」(新潮文庫)を読んだ。全篇がいじめを題材にとった重い短編集だ。 ナイフ (新潮文庫)作者: 重松清出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2000/06/28メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 162回この商品を含むブログ (159件) を見る いじめられて…

この国に生まれたから

「新選組!」(大河ドラマ)→「功名が辻」(大河ドラマ)→「功名が辻」(小説、司馬遼太郎)と一筆書きして、今は司馬遼太郎の対談集「歴史を動かす力」(文春文庫)を読んでいる。 歴史を動かす力―司馬遼太郎対話選集〈3〉 (文春文庫)作者: 司馬遼太郎出版…

仮設店舗の話

駅前の古い公団ビルがようやく建て替えになるらしい。 駅に近い方の棟は住宅ばかりだが、遠い方の棟には商店も入っている。 立ち退きとかはどうするのかなと思っていたら、まず先に駅に近い方の棟が取り壊された。 しばらくして、その跡地に仮設の建物が建ち…

民主主義とは

民主主義とは一種の運動のようなものだ。 それは絶えず民主主義であろうとすることによって民主主義たり得る、そういうものだと思う。 それは理想の楽園ではない。そこに到達すればすべてが解決するような場所ではないし、そこに行くための処方箋があらかじ…

消えてゆく個人と評価

「個人」というものがやがて消滅していく運命にあるとしたら、いわゆる「評価」という奴はどう変わっていくのだろう。 評価は企業でも学校でも行われているが、その対象は基本的に「個人」であると考えられる。 「個人」は、評価を与えられることによってま…

本と個人主義

毎度同じような話で恐縮だが、本というものも決して最小単位とは言えない。 ぼくたちは「本」を問題にし、「著者」を問題にする。 だが、実際にはキーワードやセンテンスによって本は別の本とつながっているし、何よりも本は外の世界とつながっている。 表紙…

牢獄の壁を破るには

「自分という牢獄」という話を以前に書いた。 人はみな「自分」という牢獄に住み、そこから出ようとして出られず苦しむのだと。 しかし、その牢獄もまた「構造」にすぎないのだと考えてみれば、そびえ立つ壁も堅固なものではなくなってくる。 自分という牢獄…

満員電車を満たす旋律

車窓の外を流れていく風景を眺めながら、音楽を聴いている。 イヤホンから旋律が流れはじめると、人でいっぱいの車内に風が吹きはじめる。 耐えられないほどだった喉の渇きが急速に消えていく。 音楽がぼくたちを捉えるのは、そこに「生」のエッセンスが詰め…

システムのせいにするな

■手の届かないシステムという発想 今日もどこかで、誰かと誰かの間で問題が起こる。 そんな時、ぼくたちは目の前にいる当の相手と話し合わず、問題をシステムに委ねようとすることがある。 これはシステムの問題だ。システムに問題があるからこんなトラブル…

制度とは正義とは

いささか乱暴だが、制度と正義には似たところがある。 どちらをめぐる議論も、「絶対」をめぐる議論であるという点において。 そして、どちらも「絶対はない」という事実をなかなか受け入れない点において。 現代思想とトヨタ生産方式が、まったく異なるアプ…

肯定の思想

「新選組!」で、堺雅人扮する山南敬助が坂本竜馬に向かってこう言うシーンがある。 思想が世の中を変えるのではありません。人と人とのつながりが世の中を変えるのです。 理想に燃える人は、とかくその理想でもって世界を変える、変えられると考える。 「終…

民主化、平和、人権…

キーワードと言えば、「人権」もひとつの「キーワード」だ。 人権と言えば左翼が好む言葉だが、人権という概念をどう受けとめるかについてはあまり省みられたことがない。 どんな議論をしていても、人権と言われた瞬間に勝負はついてしまうから、省みられる…

キーワード思考の危うさ

遅ればせながら「新選組!」をビデオで見ている。 時代がら「攘夷」という単語が頻出する。 当時「攘夷」は一種の流行思想で、猫も杓子も尊皇攘夷だったとか。坂本龍馬も近藤勇も最初はみんな攘夷の志士としてスタートした。 「幕府が腰抜だから、異人の奴ら…

中沢新一「アースダイバー」を読んで

中沢新一によれば、都市とは自由の場であるという。 都市の出発点は多くの場合「市(いち)」にあるが、市こそはモノを日常のしがらみから解き放って交換する場所であった。 そこでは、文化と文化が出会い、古い関係が解消されて、新しい関係がつくられるの…